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人権メッセージ集W 根本

人権は行使しなければ守れない−労働基本権

 静岡大学法科大学院教授 根本 猛

 人権は普遍的なものである。要するに誰にでも人権はあるということだ。しかし、限られた人にしか認められていない人権もある。労働基本権がそのひとつで、通常「何人」や「すべて国民」が主語の人権保障規定が、対象を「勤労者」に限定している。

 労働基本権は、簡単に言えば、使用者(企業)に比べて立場が弱い労働者は労働組合を作りなさい、労働組合は労働条件が良くなるよう使用者と団体交渉をしなさい、埒(らち)があかないときはストライキで闘いなさい、ということである。

 2、3年前に、私は大学の労働組合の書記長を務めた。書記長は、内閣なら官房長官、会社なら専務というところだろう。大学の労働組合はいい加減だから、さほどのことではないはずだが、それでも1年間それなりに大変だった。任期初めで不慣れなころは、本業も法科大学院開校直後だったこともあり、家に帰っても、労働組合と本業の後始末をしていた記憶がある。

 私は働き始めて20年以上になるが、これまでに払った労働組合費は100万円くらいになる。多額の労働組合費を払って、ときには役員として無償労働をして、何を好き好んで……と思わないこともない。しかし、これは、労働者が払わなければならない保険料みたいなものではないか。

 大学の労働組合とお付き合いがあるよその労働組合の会計監査を頼まれて驚いた。きちんと闘っている労働組合は、おおげさに言えば、毎週のように役員の会議を開き、職場集会で組合員と意志疎通し、使用者と交渉の場を持っているのである。もちろん、すべて手弁当である。そこまでしてようやく労働条件の悪化に何とか歯止めが掛けられるのである。

 もちろん、大学の労働組合も含めて我が国の労働組合には様々な問題や弱点があり、現状のままで良いわけではないことには異論がない。しかし、だからといって労働組合に入らなかったり労働組合がなくなれば、60点が0点になるようなもので、正反対の結果しか生まないだろう。

 労働組合の組織率(労働者のうちで労働組合に入っている人の割合)は2割を切ってなお低下し続けている。我が国の労働者のうち6人に1人ぐらいしか、せっかく与えられたこの労働者の特権を行使していないのである。現在のわが国の労働者の芳しくない状況−一方で正規労働者の異常な長時間労働、他方で低賃金の非正規労働者の増大−は、当然の帰結であると言ったらあまりに短絡的な見方だろうか。